今、自分が出来る事


お昼の食事と休憩で体力を取り戻した、
少年達が各々の練習に励み、
声を掛け合い、ボールを蹴る音が聞こえる午後のグランド。
そんな雰囲気を他所に校舎近くにある水飲み場では、
女性と少女の高い声で話し、笑い声が聞こえていた。

「それにしても、お兄さんには可愛がられているのね」

「そうですか?」

「そうよ。年が離れていると言う事もあるんでしょうけど、
 こんなに可愛い弟と妹がいるなんて、幸せなお兄さんだわ。
 私の従兄弟なんて、外見は可愛いのに中身は凶悪でねぇ」

暑さをも吹き飛ばすかの様な、大きな声と涼しさを感じる
水の流れる音の中会話は続いた。

「監督さんの従兄弟さんは翼さんですよね」

「そうよ。ちゃんは内情にも詳しいのね。
 その事も風祭君からの手紙に書いてあったのかしら」

「はい。電話でも話しも聞くのですが、長い事話してられないから
 いつも、手紙になっちゃうんです。でも、詳しく書いてあるので
 私も皆と一緒に居るみたいに思えてきちゃうんです」

水に漬けておいたタオルを上手く力加減をしながら絞って
カゴの中に重ねていく。

その横では、絶え間なく水が流れる音が聞こえていた。

ちゃんは、夏休み中は忙しいのかしら?」

「いえ、遊びに来たのは良いのですが、将はサッカー、
 功兄は仕事で、誰も私と遊んでくれないんです」

寂しく一人で留守番をする予定なんです・・・・・

どこか寂しげな雰囲気を出しながらも、その事を悟られない様に
ワザと大きな声を出しながら笑った。

ちゃん。もし、ちゃんが良いのなら東京にいる間
 ココの手伝いをして貰えると嬉しいんだけど、どうかしら?」

「私が、ですか?」

先ほどの寂しげな雰囲気がどこにもなく、驚き、先ほどまで
動いていた手作業を止め、横にいる人物の顔を見ると
優しく微笑み

「ええ」

と、言葉を返してくれた。

「サッカーの事、何も知りませんよ?」

「大丈夫よ。今みたいにタオルやドリンクの準備を
 手伝って貰いたいの。どう、出来そう?」

出来るか、と聞かれ横にいた人物から視線を動かし
手元にある水に浸かったタオルに視線を動かし、
次にグランドに視線を向ける。

強い日差しの中、走ってボールを追いかけている
将の姿を見つけ、将の動きを目で追っている。
必死に走り、ボールを追いかけている姿を見ていると
将の言うサッカーの面白さが伝わってくる。

もっと、将のサッカーを見ていたい!

心から思える気持ちに、玲の質問の答えを出す。

「私で良ければ、是非お手伝いさせて下さい!」

グラウンドにいる将から、横にいる玲に視線を移し
思いを言葉にする。

「良かった。正直、私一人で困っていた所なのよ。
 ちゃんが手伝ってくれるなら助かるわ」

お互い視線を合わし、会話がなされる。

「さて、そろそろ休憩にしましょうか。
 ちゃんは、そのタオルを持ってきてね」

玲の指すタオルとは先ほどから絞り続けていた数十枚の
タオルの事だった。

「このタオルを皆さんに配るんですか?」

「そうよ。皆、同じタオルだからダレに配っても大丈夫だから
 安心して皆に配っててね」

「解りました」

言葉と動きで了解をすると玲は微笑み、ドリンクを持って
グラウンドに歩いて行き、その後ろをが歩いた。

玲の笛の音と、休憩と言う言葉にさっきまで走ってボールを
追いかけていた人達が一斉に玲の元に集まった。

「今から30分休憩にします。ドリンクは何時もの所に
 置いてあるのと、タオルはちゃんが配ってくれるから
 各自貰いに行く事。休憩後も、さっきと同じ練習をするから
 その様に、以上解散」

解散の言葉と同時に集まっていた人たちが、ドリンクを手に取り
が持っているタオルに向って歩いてくるので
一人一人に

「お疲れ様です」

と、声を掛け手渡していく。
タオルを手に取った人達も

「ありがとう」

と、声を掛けてく、お礼の言葉を貰い
自然と笑顔になってきた
最後になった将は

ちゃん、なんだか嬉しそうだね」

と、声をかけられてもただ、微笑み

「皆の役に立ててるみたいで嬉しいの」

「そうか、良かった」

の笑顔に将の笑顔と言葉を返す。

炎天下の中、ほのぼのとした空気が流れ
2人の周りだけ、ゆっくりと時間が進んでいるみたいだった。

が、ソウ見えるだけで流れている時間は一緒な訳で
早くも休憩時間は終わり、
将はグラウンド、は玲の指示で先ほど皆が使った
タオルを洗う為に、水飲み場にいた。

数十枚あるタオルを一枚一枚丁寧に洗って、
干す。
乾く間にドリンクホルダーを洗いカゴに入れ

先ほど干したタオルは夏の日差しで、すぐに乾き、
タオルを寄せて畳んでカゴにしまい
先ほど洗ったドリンクホルダーと、共の椅子が
並んでいる所に持っていく。

「ふぅ・・・これでよし!」

太陽の匂いがするタオル満足げに見ていると
玲が声をかけてきた。

「お疲れ様。実はコレを見て欲しいんだけど」

何か書かれている紙を、数枚手渡され
一枚一枚見ていくと、ドリンクの作り方や
ウォーミングアップのやり方が書いてあり
不思議の思い、玲に言葉をかける。

「あの、コレは?」

「今度からちゃんにやって貰う仕事が
 書いてあるの。そんなに難しくないと思うのだけれども
 一回、目を通して貰って分からない事があったら
 私に聞いてね」

穏やかな微笑みと、優しい言葉使いに
答えるように
元気にハッキリと大きな声で

「はい」

と、返事をし、先ほど言われた通り
手渡された用紙に目を通し始め、
1つ1つ、理解しながら黙読をしていく。

柔軟の手伝い方
ボールの磨き方
マッサージの仕方
テーピングのやり方
丁寧に書かれており何1つ疑問に思う事は
なかった。

「ドリンクは何種類もあるんですね・・・・」

紙に書かれている数種類の作り方を見ながら
横にいる玲に声をかける

「そうなのよ。気温、選手の疲労度によって
 分けて作るの」

「作り分けるんですねぇ・・・・私にできるかなぁ・・・」

話を聞いて、ドリンクの大切さを感じ、
不安が広がっていく。

「大丈夫よ。ドリンクの事は私と話し合って
 作って貰うから安心して」

「よかったぁ。私一人では何を作っていいのか
 解らず、皆さんにご迷惑をお掛けしてしまう
 ところでした」

さっきの不安は玲の言葉に消され安心した
声で返事を返した。

「そんな不安がらなくても、ちゃんが作った
 ドリンクなら皆飲んでくれるわよ」

不安だった声から安心した声の変わりに
笑いそうになるのを堪え、言葉を作り
声に出した。

「そうでしょうか?」

明るかった表情が困った表情に変わる。
なんだか舞台の早着替えの様の変わっていく
表情に、子供特有の純粋さを感じ、
玲は女性がもつ母性愛の様な優しさが
産まれ始めてくる。

純粋で疑う事と知らない心

両親や兄弟が大切に思う気持ちが
この子の心を育てたのでしょう

しかし、コレだけ素直に感情を表してくれる
なんて甘やかしスギなのでは?
でも、子供らしくて可愛いから、
その気持ちは解るけどねぇ・・・・・・・
翼はこんな可愛い時期なんてなかったなぁ・・・

独り考え事と、昔の思い出に浸っていると
周りには人だかりができ、
渡された紙に目を通していると、自分の姿を
見ていた。

「皆、お疲れ様。
 今日のメニューはクリアーできたみたいね。
 時間も良い事だし、これで終了にしましょう」

集まっていた少年達に終了を告げると、
どこからか、緊張感が途切れゆったりとした空気
が流れてきたが、玲が再び言葉を掛けると
どこかに行っていた緊張感が、戻ってきた。

「それと、夏休みの間だけちゃんに手伝いに
 入って貰う事になったから、ちゃんが
 困っていたら皆で手伝ってあげて下さい」

手渡された紙を読んでいたは、自分の名前を
呼ばれ、顔を上げるとさっきまでグラウンドに
居たはずの少年達の姿と
視線があり、慌てて立ち上がった。
そんな慌てぶりに、笑いそうになりながらも
玲はに声をかけた。

「皆にちゃんの事を紹介していたんだけど
 貴方の事を知らない人も居るかから
 自己紹介をお願いね」

皆の視線と、訳が解らずに立ってしまった
事で、居心地悪そうに立ってしまった
自己紹介をする様に促すと、恥ずかしそうに
自己紹介を始めた。

「初めまして、風祭です。
 今日、九州から東京に来ました。
 夏休みの間だけですがよろしくお願いします」

言葉が言い終わると、深々と礼をして目の前に
立っている少年達を見る。

何か言いたげな少年達に解散をかけ
再びに声をかける。

「今度からは動きやすいカッコできてね」

「はい。あの、行き帰りは将と一緒でも良いですか?」

「かまわないわよ」

1つ1つの言葉と共に付いてくる表情を見ながら
優しそうに笑いかける。
 
玲の答えを貰うと

「お疲れ様でした」
と言い、お辞儀をして、校門近くで待っている
将の元へ走っていった。

高い位置から強い光で照らしていた太陽が
低い位置に移動し光も弱くなり、ゆっくりながら
水色の空から藍色が混ざり始め
気温も下がり始める頃

砂まみれになっている将と
お重を手に持ったが家の扉を開けた。